いまだ1人の少年の泣き顔が目に浮かびます。
堺市中央スポーツ大会のソフトボールの部決勝戦。
彼は校区大会、ブロック大会を投げ抜き、今回の決勝戦に駒を進めたのでした。
3年生の時からピッチャーを目指してひたすら練習。
土日だけでなく、平日も技術と体力の差を埋めるべく練習しました。
小さな体全体を使って躍動感あるフォームで投げられるようになったのがつい最近。
元ジャパン代表をはじめ、彼は色々な指導者から技術指導を受けました。
どの指導者も「いかに生きたボールを投げるか?」ということをテーマに
彼に自分の持っている技術を伝えようとしました。
指導者は技術を伝えることは出来ても、習得するのは彼自身。
あの体であのボールを投げられるようになったのを見れば
誰の目から見てもその努力の量は一目瞭然。
この日のこの場に彼が立っているのは当然の結果でした。
彼にとってもこのチームの監督にとっても、
この日が小学生ソフトボールの集大成の試合でした。
しかし・・・
1回戦、彼のは5つのイリーガルピッチを取られました。
小さな体の彼は体全体を使ってスピードボールを投げることに徹したため、
時折、プレートから足が少し浮いてジャンピングになることがありました。
堺協会の審判はそれを見逃しませんでした。
小さなエースはそれでも1試合目を何とかしのぎきりました。
そして決勝戦。
相手エースは(野手で)全国優勝を経験している好投手。
試合は投手戦の好ゲームになることが予想されました。
しかし・・・・
初回から協会の審判員は彼のほんのちょっとのイリーガルを見逃しませんでした。
立て続けに2回のイリーガルを取られ、彼はリズムを崩しました。
監督が審判をたしなめました。
褒められた行為ではなかったけど、気持ちは十分に理解できました。
1次予選も2次予選もイリーガルを取られなかったこのフォームが
この日はイリーガルでした。
瞬く間に4失点しました。
彼の顔は苦痛と悔しさがあふれ出てました。
(今までしてきた練習はなんだったのだろう?)
僕にはそういう風に見えました。
気のせいか、この好ゲームがシラけた雰囲気になりました。
あまりにも彼が気の毒でした。
本部の審判団がこのイニング終了時にイリーガルを取った審判に何かを言いました。
この直後から彼はイリーガルを宣言されることはありませんでした。
僕も部外者だったけど審判団が知っている人間だったので
「小学生でこの程度のイリーガルを取るよりは大きく育ててやった方がいいのではないか」
ということを一生懸命説明しました。
それでも彼は次のイニングでもリズムは戻らず、
2回に2ランホームランを打たれた時点で降板し、そのままファーストに入りました。
ファーストに入った彼は泣きじゃくっていました。
「審判さん、あのファーストの子の顔、見てみ?」
6人いた審判全員が本当は彼が泣いている事を知っていたんだけど
僕の言葉に対して、誰一人としてファーストの方を見ることはありませんでした。
彼はキャプテンとして泣きたいのを我慢して
点差が開いても大きな声を出してチームを盛り上げようとしました。
しかし・・・
試合は時間切れ終了。
投手戦の好ゲームを期待された決勝戦は大方の予想を裏切って、
時間切れコールドゲームとなりました。
イリーガルを容認するつもりは全然ないけど
僕は子供が小さくまとまって腕のみを廻して投げるウインドミルよりは
とにかくバネとタメで体全体を使って「生きたボール」を投げられるようになって欲しいです。
そうすることでスピードだけでなくコントロールも安定して
「ウインドミルのコツ」をつかむと思うのです。
子供やから多目で見て欲しいというわけではないんだけど、
「この時期に何を優先するか?」
それを考えて欲しいのです。
なんか、ウインドミルだけ規則でがんじがらめにして
こじんまりとしたフォームを目指しているような気がしてならないです。
ハイスピードカメラで撮影すると余程体の大きなピッチャーならともかく、
ウインドミルで投げる投手は大きさの差こそあれ、ほとんどジャンプしてます。
「このフォームが良くてこのフォームがダメ」なんて
審判の主観が大きく左右するなんてことはやめて欲しいのです。
市の子供協議会で「ジャンプは5cmでもダメ」という通達があったらしいです。
なら、それを予選から徹底しましよう。
決勝になっていきなり「ダメ」はおかしいような気がします。
決勝戦で戦った両方のチーム、どっちも知ってるチームです。
勝ったチームと負けたチームは悲喜こもごも・・・
のはずなんだけど、勝った方もなんとなく手放しで喜んでない感じでした。
試合が終わってから審判団は何やら長い打ち合わせをしていました。
帰り際、勝った方のエースがお母さんと一緒に挨拶に来てくれました。
この子は5年生の時から知っている子だけどその成長振りは素晴らしく、
あの抜群のコントロールとチェンジアップは絶妙でした。
それはそれですごく嬉しいことでした。
その後、仕事があるのでグランドを後にすべく駐車場に向かって歩いていました。
すると・・・
負けた方の子供たちが僕の後を追っかけてきて
「ありがとうございました」
と、挨拶してくれました。
エースは大泣きしてました。
僕もこみ上げてきて、何の言葉もかけられずにその子を抱きしめました。
「ようがんばったな、上手になったな」
やっとのことでその言葉だけ、振り絞って言いました。
一日たった今でもその子の泣き顔が頭から離れません。
僕自身も切ない思いでいっぱいです。
でもな、この日は悲しい思いをした一日とちゃうで。
決勝戦まで行けたという一生思い出になる、
ほろ苦いけど素晴らしい一日や。
「小学校時代に一生懸命練習してソフトでエースをやった」
ということは一生の自信につながるで。
おっちゃんはお前が頑張ったのん、ちゃんと見てたで。
だから胸張って今回の銀メダルを大事にしぃや。