ギシギシ、ガリガリ・・・

今日はね、歯を抜きにいった。
麻酔が効かないと嫌なので昨日はお酒を抜いた。
大人になってから歯を抜いた経験は2回ほど。
その2回ともが数時間かかる大工事だった。
確か、思いっきりこじられて最後はメスで歯茎を切ったように思う。
その時は腫れが3日ぐらい引かなかった。

なので今日も覚悟していった。
診察室に案内されて椅子に座った。
最初に体調が悪くないか尋ねられ、血圧を測った。

今回抜く予定の歯は2本。
昔、馬鹿なことをして歯茎を切った時に2つに分けた歯と、左下の親不知。
多分?今回も1時間以上の工事になるのだろう。

まずは麻酔が打たれた。
問診表に「麻酔が効きにくい」と書いたので先生は念入りに麻酔を打った。

「麻酔が効くまで少しお待ちくださいね」

ん?少し待つ?
そんなことして麻酔は途中で切れないのか?
ちょっと心配になった。

でも、しばらくすると麻酔が効き出したのか、
唇がいかりや長介状態になったような感じがした。

「はい、口を開けてくださいね」
覚悟を決めて大きく口を開けた。
「痛かったら口を開けてくださいね」
小さく「はい」といいながら手にはすでに脂汗がにじんでいた。

ギシギシギシギシ・・・
いや~な音が耳の中から聞こえてくる。
ギシギシギシギシ・・・・・・コロン。
「はい、一つ取れましたね」
え?一つ取れた?こんなにあっけなく?

でも、抜けたのは二つに割れた歯のかたいっぽう、ものすごく小さな歯だった。
「はい、うがいどうぞ」
言われるままにうがいをした。
麻酔が効いている時はうがいの水が唇の端から漏れるのだが、
今日は唇の感覚は死んでいなかったので、水は漏れなかった。
本当に麻酔は効いているのかな?
でも、痛みは感じなかったし・・・・
今日はもしかしたらこのまま軽~く終わるのかも・・・?

「はい、倒しま~す」
椅子は倒されて再び口を開けた。
ギシギシギシギシ・・・・
ギシギシギシギシギシギシギシギシ・・・・・・

ガリガリガリガリガリガリ・・・・
コンコンコンコンコン・・・・・・

「う~ん・・・」
ゴリゴリゴリゴリ・・・・

なんかねぇ、なんとなく痛いですよ。
手を上げてやろうか?
(こんなに大きな男の人がこれぐらいで手を上げるなんて・・フフッ)
いや、絶対に手を上げるもんか、痛くても手を上げてやるもんか。

ガシガシガシガシ・・・
グイグイグイグイグイグイッ・・・
(今日はこれぐらいにしといたろ、いや、しといてくれぇ)

フーンッ、フンッフンッ、フングッ。
フーッ・・・
「はい、取れましたねえ」

ハーッ、取れましたか・・・

想像していたよりは痛くなかったし、短時間で終わった。

銀色のトレーに転がった二つの欠けた歯を見ると、
こんなのが口の中にいたのかと思うほど変色していていびつな形だった。
思えば20数年前、ちょっとしたバカな行為がこの歯を二つに割って
そのおかげで歯茎が悪くなって随分と苦労をした。
こんなことならもっと早くに抜いておけばよかった・・・

うがいをすると血の混じった真っ赤な水が口から出た。
さあ、次は本番、親不知の番。
両手でピシャピシャと顔を叩きながら気合を入れて心の準備をした。

「はい、今日はこれで終わりです」

え?これで終わり?
親不知は・・・?

拍子抜けしたと同時にすごくホッとした。
痛いのは1回で終わらせたいがこの痛みにこれ以上、耐えられない気がした。

多分、一気にたくさん抜くと良くないんだろう。
そう納得しながら歯医者を後にした。

思っていたよりは痛くなかったし、時間もかからなかった。

「お風呂とお酒は今日はやめてくださいね。」
おかげで2日もお酒を抜くことが出来た。
こんなに健康的なのは何年ぶりだろう?
でも、もうそろそろ日付も変わるし、
缶ビールぐらいなら消毒代わりにいいかな?

今日は痛くなくてラッキーやったな・・・
しかし、この恐怖が近々もう一度あるかと思うと・・・