消えたので最初から書き直し

「相談あるねんけどな、軽トラ、もう乗らんねん、買うてくれへんか」

と、いつも贔屓にしていただいている家具屋の社長から声がかかった。

その軽トラは12年落ち、でも走行は15000km。
この12年間、ほとんど乗られてこなかったことになる。

それもそのはず、社長は御年80歳。
もう数年前に仕事はリタイヤし、軽トラも同時に使われることが少なくなった。

今日の夕方、軽トラを引き取りに工場に行った。

数年前に稼動をやめた工場は真っ暗で実にひっそりとしていた。
奥の事務所で軽トラ買取の手続きを終えると社長がポツリと言った。

「あの機械、だれか買うてくれへんかな・・」

真っ暗な工場に電気が灯ると、そこには年代物のホコリをかぶった、
それでもとても大事にされていた感じのする機械が数点。

多分、当時は社長も機械もバリバリ働いていたんやろうな・・・

でもな・・・
ここの工場、僕にも思い入れがあるんよ。

僕が小学校に入学したのは40数年前。
両親は大変な苦労をして長男であった僕に新品の学習机を買ってくれた。
2歳下の妹は中古の事務机、さらに2歳下の弟は中古の学習机。
その机を何年か使った数年後、両親は兄弟3人に新品の学習机を買ってくれた。

それは当時流行の木製の机の天板が折りたためて収納出来て
本棚が3段ほどある背の高いやつ。
兄弟3人は嬉しくて嬉しくて、机をパタパタ畳んだり、
好きな本を早速本棚に並べたりした。

高校の受験も大学の受験もこの机で勉強した。
僕は15年ぐらい使ったんとちゃうかな?
もしかしたら妹は今でも使ってるんとちゃうかな?

当時、両親が昼も夜も働いて買ってくれたこの机、
実はここの工場でこの社長が作ったものだったのです。

社長、僕が子供の頃使ってた机ね、ここで買うたんです。

社長は少し嬉しそうに笑った。

僕ら兄弟3人の勉強した机を作り出してくれたこの古い機械と
年をとった社長を見ると時代の流れを感じずにはいられなかった。
そして苦労をして僕らを育ててくれた両親の顔が浮かんだ。

今でもな、ちゃんと動くねんで

その大きな機会はスイッチが入るとまるで命を吹き込まれたように動き出した。

なんかなぁ・・・
人間も機械も歳を取る。
時代の流れとは言え、切ないというか、なんとも言えん気持ちになった。

この機械、誰か使ってくれへんかな?